股関節の異常とは
股関節は骨盤と大腿骨を結ぶ関節です。立つ・歩く・座るなどの日常的な動作は股関節の働きによって支えられており、歩行の際には体重の3倍にもなる負荷を受けているという報告もされています。また、それ以外の様々な動作でも脊椎や膝と連動して股関節が働いています。日常的な動きで左右の股関節は常に大きな負担を受け続けており、痛みや骨の変形などを起こしやすい部位です。股関節に痛みなどの問題があると基本的な動作が困難になり、寝たきりになる可能性もあります。股関節疾患は状態にきめ細かく合わせた治療が必要であり、さらに専門性の高いリハビリテーションやトレーニングが不可欠となります。
股関節の構造
受け皿となる骨盤に、太ももの骨である大腿骨の先端が組み合わされた関節です。大腿骨の先端である骨頭はボール状になっており、骨盤の臼蓋という皿状の部分にフィットして前後左右、斜めなど自在に動かすことができます。骨盤と大腿骨の結合が浅いと、骨のずれや変形を起こしやすくなり、それによって損傷が生じて痛みなどの症状を起こすことがあります。状態によっては手術が必要になるケースもあります。日常生活へ支障を及ぼさないためには、早期に適切な治療を開始し、リハビリテーションも含めたトータルな治療をしっかり受けることが重要です。また、股関節の形状に先天的な問題があることが乳児健診で発見されることもあります。その場合は、装具による治療に加え、抱っこやおむつ替えの際などのケア方法の指導を受けることで成長による改善が期待できます。
股関節に起こる主な異常
骨折
主に、転倒によって受けた強い衝撃によって生じます。ほとんどの場合は大腿骨骨頭の骨折であり、背景に骨粗鬆症が隠れているケースが多くなっています。骨がもろくなって骨折しやすくなる骨粗鬆症は女性の発症が多く、特に女性ホルモンの分泌が低下する更年期・閉経以降に発症・進行リスクが上昇します。歩行だけでなく、立つことも困難になってしまう可能性があり、注意が必要です。
関節部分の変形
先天的な問題や加齢による変化が原因となって生じ、骨同士がぶつからないようクッションの役割を果たしている軟骨が変形によってすり減ってしまい、大腿骨骨頭と骨盤の受け皿である臼蓋が摩擦を起こして関節の変形がさらに進んでしまうことがあります。
股関節に筋肉をつなぐ腱の炎症
股関節周辺には様々な筋肉につながった大きな腱が複数存在し、骨盤に付着しています。こうした腱が付着する部分では剥離骨折や筋腱損傷を起こすことがよくあります。関節周囲の損傷では周囲に炎症を起こし、放置していると拘縮を起こして動作の際の痛みが長く残ってしまうことがあります。スポーツに熱中している中高生では、こうした損傷や炎症を我慢して悪化させるケースが少なくありません。早期に適切な治療を受け、しっかり治すことが重要です。
主な症状
- 股関節部分の強い痛み
- 歩けない
- 立てない
- 座れない
- 階段昇降で、足の付け根が詰まるような違和感がある
- 足の爪を自分で切れない
- 靴下を履くのが難しい
- 手すりにつかまらないと車やバスを乗り降りできない
- 運動や動作で痛みが起こる など
股関節は日常の基本的な動作に関与する重要な部位です。上記のような症状のある場合はすぐに当院までご相談ください。なお、違和感程度の場合も気兼ねせずにご来院ください。
代表的な疾患
変形性股関節症
股関節の軟骨が摩耗してしまい、大腿骨骨頭と受け皿である骨盤の臼蓋の骨同士が擦れて骨が変形し、炎症を起こすことで歩く・立ち上がるなどの際に痛みを生じる疾患です。進行して変形が進むと強い痛みを起こすようになり、股関節の動きが制限されて、歩行困難をはじめ日常生活の基本的な動作ができなくなる可能性があります。
発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼・臼蓋形成不全)
先天的に骨盤と大腿骨のフィットが浅いなどの形態異常があって、痛みや股が十分に開かないなどの症状を起こします。乳幼児健診で発見されることも多く、装具療法や抱き方などのケア指導により改善するケースがある反面、幼少期に発見されずに成人してから症状を起こしてはじめて分かるケースもあります。
関節リウマチ
自己免疫疾患であり、滑膜組織が異常に増殖して関節内の慢性的な炎症を生じ、痛みや動かしにくさなどを生じる疾患です。進行すると関節が破壊されてしまい、様々な機能障害を起こして日常生活に支障を生じます。
大腿骨頭壊死症
骨の先端部分へつながる血管が詰まり、血流が途絶えて骨が壊死してしまう疾患です。原因が分かっておらず、難病指定を受けています。壊死の進行には個人差がありますが、大腿骨骨頭は壊死が進みやすい傾向があります。加齢は発症に関係せず、幅広い年代で発症します。股関節骨折や脱臼、ステロイド投与、糖尿病、過度な飲酒などが発症に関与しているという指摘もされています。強い痛みを生じて日常生活に大きな支障が及ぶ場合には、骨切り術や人工股関節置換術などの手術を検討します。
大腿骨頚部骨折
骨折では、この大腿骨頚部骨折と腰椎圧迫骨折・橈骨遠位端骨折が三大骨折と呼ばれているほど患者様の多い骨折であり、毎年約17万人が手術を受けているとされています。強い痛みを生じ、立つ・歩くなどができなくなりますので、基本的に手術が必要になります。転倒や事故に加え、骨粗鬆症によって生じるケースも多く、更年期・閉経を過ぎた女性は注意が必要です。
股関節周辺の炎症
股関節の周辺には大きな筋肉があり、スポーツによるオーバーユースで腱や靱帯に炎症を起こすことがあります。悪化させないために早期治療が重要であり、当院ではできるだけ早く復帰して再発を防ぐコンディショニングまで含めたトータルな治療を行っています。
診断
X線検査
骨折や骨の変形、骨形態の異常などの有無や状態を詳細に確認できます。またリウマチ性の変化を確認したり、壊死や腫瘍性病変の有無などを確かめたりすることもできます。
超音波(エコー)検査
X線検査では確認が困難な筋肉、靱帯、腱をはじめとした軟部組織の状態や炎症について詳細な観察や分析が可能です。リアルタイムの状態をみることができ、動作した際の状態も確認できます。
MRI検査
微細な骨折や骨挫傷、壊死の詳細なチェック、筋肉・腱・靱帯などの状態や炎症などを精緻に分析するために行われます。必要な場合には連携している高度医療機関をご紹介しています。
治療
同じ疾患でも症状や状態、年齢、ライフスタイルなどによって適した治療法が異なります。痛みに対しては緩和させる対症療法を共通して行いますが、それ以外の治療やリハビリテーションに関しては患者様にきめ細かく合わせた治療が必要になります。
薬物療法
痛みを緩和させるための内服薬や外用薬を使った治療を基本に行います。
装具治療
杖を含め、様々な装具から適した物を用いて動きの改善や安定性の向上、歩行時の痛みや負担の軽減を図ります。
物理療法
温熱治療、超音波治療器などを組み合わせることで、より早い治癒につなげます。深層まで効果が届く物理療法を行っており、筋肉を効果的にゆるめて血行や代謝を改善しています。
運動器リハビリテーション
股関節周辺の筋肉や靱帯の柔軟性をアップさせるストレッチや筋力アップの効果的なトレーニングを中心に、体幹や下半身なども含め全身のバランスを調整するリハビリテーションを提供しています。特に、背骨から膝までは連携して様々な動作を行う部分ですので、総合的なリハビリテーションは症状の改善や治癒だけでなく、再発予防にも大きく役立ちます。疾患によっては進行防止のために行う場合もあります。また、日常的な動作の確認、スポーツをされている方はフォームの見直し、負担の少ない動きを身に付けるトレーニングなども行っています。
手術治療
股関節の変形が進行すると立つ・歩くなどの基本的な動作が困難になりますので、そうした際には手術が必要になります。また大腿骨頚部骨折もほとんどの場合には手術を行います。手術が必要な場合には、連携している高度医療機関をご紹介していますが、術後の診療やリハビリテーションは当院で受けられます。
姿勢の悪さや肥満も
股関節異常の要因です
骨盤は少しだけ前傾していますが、姿勢が悪いと骨盤が徐々に後ろに傾く後方傾斜を起こします。後方傾斜では、骨盤の臼蓋が浅くなって軟骨を摩耗させてしまい、股関節の異常につながる「ヒップスパインシンドローム」を起こすリスクがあります。
また、肥満も股関節に対する負担を大きくして変形や痛みなどを起こすリスク要因となっています。
姿勢の悪さや肥満による股関節異常の場合、早期に対応することで深刻な症状まで進ませずに治せる可能性があります。姿勢の悪さや肥満があって股関節に違和感を生じたら、早めにご相談ください。
股関節痛でお困りの場合は、
気軽にご相談ください
股関節の異常は先天性のケースが多く、乳幼児健診で発見されることも多いのですが、見逃されてしまい、成人してから発見されることもよくあります。軽度な変形であれば、日常生活でのケアや装具療法などで改善が期待できます。
ただし、変形が進行してしまうと元に戻すのは困難です。その際も、進行を止めて症状を緩和させる治療やリハビリテーションが可能です。また、日常動作の癖や姿勢などの見直しや自宅で継続的に行えるストレッチなどについても親身にアドバイスしています。
股関節は立つ・歩く・座るといった日常の基本動作に影響する部位です。少しでもおかしいと感じたら気軽にご相談ください。
よくある質問
股関節痛は病院に行くべきですか?
股関節に痛みがある、日常生活に支障が出ている、または痛みが数週間以上続いている場合には、早めに整形外科を受診することが重要です。
股関節の痛みの主な原因
変形性股関節症
加齢や過剰な負荷による股関節の摩耗や変形が原因となることがあります。
大腿骨頭壊死
血流不足によって骨が壊死し、強い痛みを引き起こします。
骨折や外傷
特に高齢者は転倒により骨折を起こすリスクが高いため注意が必要です。
高齢者とお子様の特別な注意点
高齢者の場合
転倒や外傷後に痛みが続く場合は、骨折の可能性を考慮し早急に診察を受けましょう。
お子様の場合
股関節の痛みに加えて発熱がある場合、小児特有の疾患の可能性があります。小児科が併設されている医療機関の受診が推奨されます。
生活習慣の見直しが予防のカギ
生活様式の工夫
和式の座り方を避け、椅子や洋式トイレを使用することで股関節への負担を軽減できます。
運動の継続
無理のない範囲で適度な運動を習慣化することが、股関節の健康維持に役立ちます。
早期発見と予防で股関節の健康を守る
股関節の痛みを放置すると、症状が悪化し生活の質を低下させる可能性があります。早期発見・予防のためにも、痛みが気になった時点で受診し、専門医による診察を受けましょう。股関節の健康を維持するために、日々の生活習慣を見直し、無理のない運動を取り入れることが大切です。
股関節が痛い時のマッサージは
どうする?
股関節の痛みを緩和するためには、周辺の筋肉をほぐすマッサージや効果的なツボ押しが有効です。
適切な方法でケアを行うことで、股関節の動きを改善し、痛みを和らげることが期待できます。
股関節周辺の重要な筋肉
股関節周りには以下の筋肉があり、これらが硬くなると動きが制限され痛みの原因になります。
- 大臀筋、中臀筋、小臀筋(臀部):お尻の筋肉で、股関節を支える重要な役割を果たします。
- 大腿四頭筋(太ももの前面):股関節を動かす際に欠かせない筋肉です。
- 腸腰筋(太ももの内側と骨盤):股関節の屈曲に関与します。
- 内転筋(股関節の内側):足を閉じる動作をサポートします。
股関節の痛みに効果的なツボ
- 陽陵泉(ようりょうせん):膝の外側に位置し、筋肉の緊張を緩和するツボです。
- 環跳(かんちょう):お尻の中央付近にあり、股関節痛や腰痛の改善に効果が期待できます。
股関節の痛みに効く
マッサージ方法
股関節周辺の筋肉をほぐす
手のひらや指を使って、痛みが出ない範囲で優しく揉みほぐします。
ツボを指で押す
指先でツボを心地よい程度に押し、3~5秒間キープしてゆっくり離します。
硬いボールを使ったケア
テニスボールやゴルフボールを使い、ツボや筋肉に当てて体重をかけながら刺激します。
注意点と早期受診のすすめ
股関節の痛みが軽減しない場合や悪化する場合は、自己判断せず医療機関を受診しましょう。適切な診断と治療を受けることで、症状の進行を防ぎます。
日々のケアで痛みを予防
股関節の痛みを予防・軽減するには、普段から筋肉の柔軟性を保つストレッチやマッサージを取り入れることが重要です。
適切な方法を継続して行い、股関節の健康を守りましょう。
股関節の痛みの原因は?
股関節の痛みは、股関節唇損傷、変形性股関節症、鼠径部痛症候群などの疾患が原因として挙げられます。
また、痛みはお尻や太もも、鼠径部など、股関節周辺のさまざまな場所に発生することがあります。
股関節の痛みの主な原因
怪我や外傷
転倒やスポーツによる骨折、打撲、捻挫などが挙げられます。
使い過ぎによる炎症
股関節周囲の組織が酷使されることで炎症が生じる場合があります。
関節炎を伴う疾患
リウマチなど、股関節に関節炎を引き起こす病気が原因になることがあります。
骨の弱化
骨粗しょう症などにより骨がもろくなり、転倒時に股関節が損傷するリスクが高まります。
日常生活での対処と予防
和式から洋式の生活への切り替え
正座やあぐらなど和式の生活習慣は股関節に負担をかけるため、椅子や洋式トイレを利用することで負担を軽減できます。
適正体重の維持
肥満は股関節への負担を増大させるため、食事の見直しや適度な運動で体重管理を心がけましょう。
適切なケア方法
トリガーポイント療法、ストレッチ、マッサージなどは一時的な痛みの緩和に役立ちますが、根本的な解決にはなりません。
早期診断と治療の重要性
股関節の痛みを放置すると、症状が悪化し日常生活に支障をきたす可能性があります。
特に以下のような場合は、早めに整形外科を受診してください。
- 痛みが長期間続く場合
- 動きに制限がかかる、または歩行が困難になる場合
- 夜間痛みで眠れない場合
股関節の痛みを軽減するために
適切な生活習慣やケアを取り入れることが、股関節の負担を減らし痛みを和らげる第一歩です。早期対応と専門的な治療が、健康な生活を取り戻すために欠かせません。股関節の違和感や痛みを感じたら、迷わず医師に相談しましょう。
股関節が痛い時に
やってはいけないことは?
避けるべき動作や行動
股関節を曲げた状態での運動や激しい動作
激しい運動や無理な動作は股関節に負担をかけ、痛みを悪化させる原因になります。
正座・あぐら・しゃがむ動作
これらの姿勢は股関節に不自然な圧力をかけるため、症状を悪化させるリスクがあります。
重い物を持ち上げる行為
特に股関節に負担がかかる重い物の持ち上げや移動は避けましょう。
急な動作やジャンプ
突然の動作や関節に衝撃を与える行動は控える必要があります。
長時間同じ姿勢を続けること
長時間の静止状態は血流を妨げ、痛みを増長させる可能性があります。
不適切なストレッチや運動
無理なストレッチや跳び箱のような関節に衝撃を与える運動は避けてください。
飲酒や喫煙
血流や代謝に影響を与え、股関節の回復を遅らせる要因となるため控えましょう。
股関節に負担をかける具体例
座り方が悪い
正座、あぐら、横座りは股関節に強い負担をかけるため避け、腰や関節に優しい椅子を活用しましょう。
ひねる動作やしゃがむ動作
股関節を大きくひねるような動きやしゃがむ姿勢は症状を悪化させる可能性があります。
重い物を持つ
持ち上げるだけでなく、歩行時も過剰な負担をかけないよう心がけましょう。
体重管理の重要性
体重増加は股関節への負担を増やします。暴飲暴食や運動不足を避け、適切な体重を維持することが、股関節の痛みを軽減するために重要です。
健康的な股関節のために
痛みがある場合、適切な姿勢や動作を心がけることが、症状の悪化を防ぐカギです。もし痛みが長引く場合や生活に支障が出る場合は、早めに医療機関を受診しましょう。